ブログ

ブログ

社員を“しあわせ”にできていますか?(2)

社員を本当にしあわせにできている素晴らしい会社は、日本にもたくさんありますが、私がこれまでに訪問した中でも、特に「ここの社員さんたちは本当にしあわせだなあ!」と実感した会社が高知県にあります。不動産賃貸業のエイブルを高知県内で5店舗展開するファースト・コラボレーションという会社です。

 

社員数60名弱という中小企業ですが、これまでに、経済産業省の「おもてなし経営企業選」、「ダイバーシティ企業100選」、「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」を受賞し、さらには、エイブルにおいては「顧客満足度ランキング4年連続日本一」を果たすなど、小さいながらも知る人ぞ知る素晴らしい企業なのです。

 

エイブルでは、顧客満足度において上位に入賞した販売員を毎年表彰しているのですが、3000人を超える全国の販売員の中で、わずか社員数60名に満たない同社から、ベスト10に毎年複数人、多い年は5人ものメンバーがランクインをしているのです!しかも、ほとんど1位を連続して獲得しているのです。まさに圧倒的、ぶっちぎりの強さです。

 

私は同社を訪れる前にも、創業者である武樋社長の講演を都内でお聴きしたことがあったので、どのような経緯で、どんな思いで経営をしておられるのかも概ね理解をしていたつもりではいましたが、実際に会社を訪問させていただいたことで、同社がいかに素晴らしい会社であるかを改めて実感することができました。

 

私が同社を訪問してまず感じたことは、社長以下みなさんの温かさでした。彼らにとって何の利益にもならない訪問であったにもかかわらず、私たちを満面の笑顔で迎い入れ、丁寧に応対をしてくれました。あまりにもみなさんの笑顔が爽やかで愛情に溢れていて、思わず心がほっこりとしたのを今でもよく覚えています。まるで、仲良く付き合っている親戚の家に遊びに来たかのような、温かくて親しみやすい、とてもリラックスした空気がそこにはありました。同社を訪れたお客様が、みんなこの会社のファンになってしまうのが、よくわかりました。

 

 

私はいつも「良い会社や繁盛しているお店には、必ず良い“空気感”がある」と言っていますが、この何とも言えない温かい“空気感”は、一体どのようにして作られているのか、コンサルタントとして、その構造を分析したいと思いました。

 

もちろん、単純に、目の前に座っている武樋社長の親しみやすく優しい笑顔や、社長の横に座って応対をしてくれている女性社員たち一人ひとりの太陽のように明るい笑顔と笑い声が、その“空気感”を生み出している直接の要因であることに疑いの余地はありません。しかし、私は、そんな彼女たちの“笑顔の質”を生み出している経営のあり方と人材戦略にこそ興味があったのです。彼女たちの笑顔が、単なる作り笑顔や、接客マナーでないことは明らかで、その“笑顔の質”の違いこそが、顧客満足度の違いを生み出し、エイブルの他の加盟店との圧倒的な差を生み出していることは明白でした。

 

社員の一人ひとりが、いつも心からの笑顔で接客ができるか、あるいは、“作り笑顔”の業務的な接客に留まるか…。不動産賃貸業のように、特に扱う商品で他社と差別化をすることの難しい業態においては、この違いは決定的な差別化要因となり、業績に直接影響を及ぼします。

 

武樋社長の経営に対する考え方、思い、そして、経営戦略、人材戦略に、そのヒントがあるはずと思い、私はストレートに幾つかの質問をぶつけてみました。

 

「講演でもお聴きしましたが、また改めておうかがいします。武樋社長は、何のためにこの会社を経営しておられるのですか?」

 

「それはいつも言っているんですが、僕は、本当にうちの子たち(社員)に幸せになってもらいたくて。僕がこの会社を経営している目的は、本当にそれしかないんですよ」

 

20代の頃、何社かの会社で働いてみたけれども、どこも納得のいく会社がなくて、それならば、と自分で立ち上げることになったのが同社なのですが、「社員を幸せになってもらいたい」というのは、創業時から一貫した社長の思いなのだと言います。

 

従来の経営学では「経営の目的は利潤の追求である」と教えていますが、武樋社長にとっては、「経営の目的は社員を幸せにすること」なのです。前回書いた稲盛さんの言葉をまさに地で行く経営を貫いておられるわけです。

 

経営の目的が「利潤の追求」なのか、それとも、「社員を幸せにすること」なのか…。

 

この違いは決定的な違いです。

 

どちらが正しいのかは私にもわかりませんが、目的が違うのですから、経営のスタンスも戦略もすべてが違ってくることだけは明らかです。

 

そして、同社の素晴らしいところは、人事・採用・教育といった人事施策や組織作り等、すべての施策が、「社員を幸せにする」という目的を果たすためのものになっているという点です。

 

その中でも特に象徴的なのは、「ノルマなし・歩合なし・命令なし」という制度です。

 

営業会社なのに、ノルマも歩合もないなんて、ちょっと普通では考えられませんね。「それで本当に社員さんたちは高いモチベーションを維持して仕事をできるのだろうか?」と普通は思うでしょう。

 

でもこの制度が見事に機能しているわけです。その結果が、「顧客満足度ランキング4年連続日本一」です。

 

なぜ、こんな制度に辿り着いたかと言うと、これも徹底的に社員全員で、「どうしたら私たちはもっと幸せになれるだろうか」ということを追及し、議論した結果だといいます。

 

「どうしたら私たちはもっと幸せになれると思う?」

 

「それはもちろん給料や福利厚生が良い方がいいよね。欲しいものが手に入るし、安心して豊かに暮らせるからね」

 

「でも、仮に給料が良かったとしても、仕事が楽しくなかったら、それもあまり幸せとは言えないんじゃないかな。起きている時間のほとんどの時間を、仕事をして過ごしているんだから、やっぱり仕事が楽しくなかったら、幸せとは言えないよね」

 

「それはその通りだよね。じゃあ、どういう時、私たちは仕事をしていて楽しいとか、幸せとか思えるのかな?」

 

「仕事をしていて一番幸せを感じるのは、やっぱりお客さんに『あなたのお陰でいいお家が見つかったわ~!』とか、『最高の住み心地よ!』とか言って喜んでもらった時よね」

 

「そうだよね。やっぱりお客さんに喜んでもらう以上に嬉しいことってないよね」

 

「それとやっぱり、一緒に働く仲間と仲良く仕事ができたら、絶対にその方が幸せだよね」

 

「職場で一緒に働く仲間とギクシャクしていたら、それはすごい嫌かも…」

 

「そうだよね。それは絶対辛い」

 

「やっぱりチームワークがいいのは大切なことだよね」

 

そんな話し合いの中から、社員が幸せになるための条件が明らかになってきたわけです。

 

それは、「お客様に喜んでいただけることだけに純粋に注力できる環境であること」と、「常にチームワークが良いこと」の二つでした。

 

ノルマや歩合があると、お客様に喜んでもらうことよりも、自分の数字を優先させてしまう可能性があるので、純粋にお客様に喜んでもらおうという気持ちが薄れてしまいます。また、仲間はみんな競争相手になってしまうので、そもそもチームワークを良くしようという意識になれない可能性が高く、みんな個人プレーに走ってしまう危険性があります。

 

また、上司が部下に命令をすると、部下は命令をされたから仕方がなくやるという意識に陥ってしまい、それが習慣になると、仕事に対する主体性そのものが削がれてしまう可能性があります。

 

そこで、武樋社長は、大胆にも、「ノルマなし・歩合なし・命令なし」という制度に切り替えたわけです。

 

その結果、一人のお客様が来店すると、手の空いている社員はみんなでその一人のお客様に喜んでもらうために動き始めるようになりました。

 

もうノルマも歩合もないわけですから、純粋に目の前にいるお客様に喜んでもらうためには、自分は何をできるだろうかということに意識を集中できるわけです。

 

自分の知るおススメの物件をご紹介する、お子さんを連れていたら子どもの相手をしてあげる、コーヒーやお茶菓子をお出しする、時には冗談を言って和んでもらう、等々…。

 

みんなで“寄ってたかって”、元気よく心からの満面の笑顔で接客してくれるものだから、来店したお客様はすっかりこのお店のファンになっていくわけです。

 

そうやってファンになった人の中には、他の不動産屋さんで提示してもらった物件のコピーをわざわざ持って来て、「この物件、おたくで扱ってないかしら?どうせならおたくと契約したいんだけど」というお客様もいるそうです。

 

また、武樋社長は、「チームワークと業績は見事に比例するんですよ」ともおっしゃっていました。

 

売上の数字を見ていると、たまに、「おや?何かあったかな?」と思う時があるそうです。それは、想定よりも数字が下回る日が続いた時だといいます。

 

そういう時は、たとえ営業時間中であったとしても、全店舗を一時閉店して、全社員ミーティングを行います。そして、「いま何が起きているのかな?」とみんなに投げかけます。

 

すると、しばらくの沈黙の後、誰かが口火を切ります。

 

「実は、先週〇〇さんがちょっとしたミスをしてしまったんですけど、その時、私が少し厳しめに指摘をしてしまって、それが彼女の中にまだ残っているんじゃないかと思うんです。私もその後で、他のメンバーにお願いして、彼女のフォローをしてもらうべきだったんですけど、それができてなくて…」

 

「なるほど、そういうことがあったんだね。それについてみんなで話そうか?みんなはどう思うかな?」

 

そんな話し合いを、社員全員でしばらく行うというのです。

 

そして、ひとしきり話し合いができ、全員の気持ちが落ち着いたと判断したら、社長はミーティングを解散し、業務再開を言い渡します。すると、見事に数字はすぐに元に戻るそうです。

 

他にも、同社には「ライフイベント優先」という考え方も定着しています。

 

社員の7割以上が女性社員なので、彼女たちにとって大切な結婚や出産・子育てなどのライフイベントを優先した経営計画を立てているのです。私たちが見せていただいた「出産スケジュール表」なるものには、向こう5年間の、女性社員たちの出産と育児の“計画”一覧が記されていて、いつ出産が重なるかが一目でわかるようになっていました。

 

そして、新店出店などの大切な経営計画は、彼女たちのライフイベントと重ならない時期に実施できるように計画を立てているのです。

 

「社員を幸せにする」という経営の目的を実現するための経営計画であり戦略であり人事施策。

 

私は、このファースト・コラボレーションという会社に、これからの日本企業が目指すべき経営のあり方の見本を見せてもらっている気がしました。

 

インタビューを終えた私たちを、武樋社長は、高知の繁華街に連れて行ってくれましたが、そこで地元の国立大学を卒業して入社したばかりの女性社員が、目をキラキラ輝かせて言った一言が、私の心に強く刻み込まれました。

 

「うちの社長は本当に愛の人なんですよ」

 

やはり、根底に社長の愛があるんですね。社長が社員を心から愛し、社員の幸せを本気で考える。だから、社員たちは安心してお客様のために尽くせる。その結果、顧客満足度が最高レベルに達し、必然的に好業績へと繋がる。こんな循環を作ることこそが、私たち日本企業が目指すべき姿なのではないでしょうか。